ALBUM OF THE YEAR 2015 (10-1)




【REPOOOOORT BEST OF 2015】(※随時更新していきます)
1. ALBUM OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )
2. EP OF THE YEAR ( 5-1 )
3. TRACK OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )


10. Marina and the Diamonds - Froot


フォークロアな色合いのデビュー作”The Family Jewels” (万が一「無人島にアルバムを1枚持っていくなら?」と聞かれた時の答えはこれだと決めている)〜エレクトロ路線と華美なビジュアルで見事にオルター・イーゴを演じきった2作目”Electra Heart”と、どちらも異なるベクトルで濃い目のアルバムが続いたMarina嬢。初のセルフプロデュース作となった今作はそれらに比べると非常にあっさりしていて、いい意味で無駄がない。ただ彼女の「素」がそこにある、まっさらな境地がシンプルなバンドサウンドによって見事に提示されています。
タイトルの通り色とりどりのフルーツをモチーフに展開されたアートワークや、昨年から本作リリースまでに行われたキャンペーン活動“Froot of the Month”など、ファンをワクワクさせるようなビジュアルやプロモーションで彼女から多くの楽しみをもらった上半期でした。





9. 水曜日のカンパネラ - ジパング


ある日ラジオで耳にした“桃太郎”で胸を射抜かれ、とりあえずYouTubeで検索をかけてみるとこの曲以外にも沢山のMVを作っていることに気づき、それらを一通り見ていくうちにこりゃあキリがないぞと思い立ち、過去のリリースを遡るようにCDを買う……といったルートを辿った人はきっと自分だけではないはず。
トレンドの潮流を巧く汲んだサウンド、巧みな言葉遊びの応酬が耳に気持ち良いコンセプチュアルな歌詞世界、そしてユニットの顔であるコムアイ嬢の魅力(本当にすごいし、ずるい)。嗅覚の鋭さと程よいユルさのバランス感覚に長けた人々の集まったチームによるクリエイティビティがこのアルバムに集約されています。そりゃあもう、否応なしに楽しんじゃうしかない。難しいことは考えずに。





8. Kate Boy - One


2012年の暮れに“Northern Lights”で突如としてシーンに登場したスウェーデンのエレクトロポップバンドKate Boy待望のファースト作…ですが、ぶっちゃけ言うと、アルバム出すの1年遅くないか?と思ったほど勿体ぶられちゃった気がしてます。4人だったメンバーもいつの間にか2人になってるし。
しかし彼ら…というよりは、Kate嬢の持っているであろう確固たるビジョンはブレなかった。ビートの効いた力強い楽曲群、エネルギッシュなヴォーカル、モノクロを基調とした一貫性のあるビジュアルアプローチ…といった、Kate Boyというプロジェクトを構成するあらゆる要素がデビューから大きく破綻されることなく、3年がかりでようやくひとつの作品として結実されたことは祝福されるべきことです。そう考えると、“One”というタイトルはただ1枚目のアルバムだからと言って付けられたものではない、一見単純なようで、非常に大きな意味のあるものに思えてきました。





7. Disclosure - Caracal


前作と聴き比べてみるとプロダクションが格段にゴージャスでアトモスフェリックになってて耳が昇天しました。正直に言うと「金かかってんな〜」っていうのが第一印象ではあるんですが、それはもうリスナーにとっては非常にありがたいお金の使い方なのでいいんです。(実際の使途は分かりませんが。笑)
The WeekndやLorde、再タッグのSam Smithと豪華なメンツで固められてはいますが、売れたからといってセルアウトに走らず堅実に仕事をしている印象です。ミッドチューン多めでアルバム全体が落ち着いたトーンでまとまっている辺りもそう思わせる要因なのかも。
ネームバリュー云々を抜きにして楽曲とボーカルの組み合わせで好きだなと思ったのがGregory Porterの“Holding On”(歌い出しから最高!)、Lion Babeの“Hourglass”(本作で一番聴いてる曲!)、Naoの“Superego”(前作に無い曲調!)辺りでしょうか。特にLion BabeやNaoといった女性シンガーのチョイスに関しては今作かなりツボでした。





6. SOPHIE - Product


今やMadonna安室奈美恵Charli XCXなど引く手あまたの売れっ子プロデューサーとなったUKのぶっ飛び系バブルガムベースお兄さんことSOPHIEによるシングルコレクションです。(そういえば、きゃりーぱみゅぱみゅとのコラボの話はどうなったんだろうか……)
本作ではSilicon Productという新たなフォーマットも打ち出されており、最高にDOPEなアプローチをかましてくれています。また昨年シングルとしてリリースされた本作収録の“Lemonade”が今夏海外でマクドナルドのCMに起用されたわけですが、商業主義や消費主義に対する嘲笑やアンチテーゼ的姿勢を取っているPC Music一派に関わる楽曲なだけに、かなりの大事件であり、同時に自然な流れとも捉えられるセンセーショナルなニュースとなりました。
本作後半の新曲群は“MSMSMSM”や“L.O.V.E.”といった聴覚を蹂躙する系の楽曲が挟まれますが、お耳直しと言わんばかりにそれらを補って余りある“VYZEE”と“JUST LIKE WE NEVER SAID GOODBYE”によって救われます。毎年毎年彼の曲を聴き倒しながらこういった音に対して耳がどんどん慣れていく感じ、実にドラッギー。





5. Jain - Zanaka


今年の個人的ベストニューカマー賞は彼女にあげたい。1992年生まれの新進女性SSW・Jainのデビュー作。マダガスカルをルーツに持つ彼女はフランス・トゥールーズで生まれ、コンゴUAEでの居住経験も持っているユニークな遍歴の持ち主です。
Jainという名前はジャイナ教が由来では無いかと予測されますが、阿修羅像を彷彿とさせるジャケットのポーズは仏教かヒンドゥー教由来のもので、どうやらジャイナ教とは直接的な関係は無さそう。さらにマダガスカルには少数とはいえ数万人単位のインディアン・コミュニティがあるらしいということも分かり、彼女のルーツをさらに辿るとインド系移民とも繋がってくるのではないか…という仮説に辿りつきました。(ちょっと前に本作に端を発したこんな話題で知人のインド文化研究者と少し盛り上がったので、余談ではありますがメモとしてここに記しておきます。)
レゲエ〜アフロ・ビート〜ソウル〜ブルースといった多様なジャンルを見事に自分のもにしたハイブリッドな世界観に、有無を言わせず身体と心が弾みます。アルバムの幕開けを飾るリード曲“Come”で《My soul is in Africa》と歌っているように、自らのアイデンティティを音楽によって体現した、まさしく「名刺代わり」のデビュー作であると言えよう。
ちなみにアルバムタイトルはマダガスカル語で「子供」を意味し、収録曲の“Makeba”は、Mama Africaの愛称で知られ、反アパルトヘイト闘争のシンボルともなった南アフリカ共和国出身の歌手・Miriam Makebaがモチーフとなっています。
2013年にリリースされ欧州各国でメガヒットを記録したStromaeの2ndアルバム“Racine Carée”もそうでしたが、彼らのようなアーティストの活躍によって、ヨーロッパや周辺諸国を取り巻く実に様々な文化・社会・歴史的背景を学ばせてもらっている自分がいます。





4. Especia - Primera


祝・メジャーデビュー!と思いきや1曲目を飾る若旦那(湘南乃風)プロデュースの“We are Especia〜泣きながらダンシング〜”が界隈で物議を醸しまくっててリリース前から若干心配でしたが、2曲目で即座にインタールードが差し込まれ、以降はいつものEspeciaでひと安心。なんて大人の事情が垣間見えつつも、相変わらずクオリティの高いオケと、そこにん追いつかんとばかりに着実にヴォーカルスキルを上げにかかっているメンバーの努力の結晶が顕著に伝わる出来栄えで、来年リリースの新作にも期待がかかります。
そして本作で特筆すべきは初回盤のDisc2でしょう。もうね、最高としか言いようがありません……。インディーズ時代ほど自由に音源を配布できなくなった代わりなのか分かりませんが、とんでもない大盤振る舞いです。リミックスはもちろんだけどインストでもことごとく聴かせにかかるから本当に反則です。ヴァイナル盤としてリリースされ、期間限定でフリー配信もされていた“Primavera”と合わせて聴いた日にはもうフルコース。





3. Róisín Murphy - Hairless Toys


いやー、本当にこのおばさん、いい年の重ね方してるわ。音もビジュアルもポップで華やかだった前作“Overpowered”から8年も経てばそれはもう落ち着いた大人の様相に…いやでもやっぱりちょっと様子がおかしい。アルバム全体にうっすら漂う“静かなる狂気”のせいでしょう。全8曲ながらほとんどの曲が5〜6分台。じわじわと展開される楽曲を聴き進んでいくうちに、一人芝居が繰り広げられるスポットライトを遠くの客席で眺めているような感覚に陥ります。時におどけてみたり、かと思えば途端に空気が張り詰めたような表情へと変貌する。そんな彼女の表現の振れ幅を堪能するには、静かな環境が一番良さそう。深夜にヘッドホンをして耽りたくなるアルバム。
ちなみに現在公開されている4つのアルバム収録曲のMVは、いずれもRóisín姐さん本人によるディレクションによるもので、往々にしてイカてます。もうこのテンションが素なのではないかとさえ錯覚してしまいそう。






2. Little Boots - Working Girl


「働く女」とはこれまた、自身でレーベルを運営するフィメールボスとしての肩書を持つ今の彼女にとって実にドンピシャなコンセプトを持ってきたものです。
昨年リリースのEP“Business Pleasure”は今作の布石でした。フェミニンで洗練された大人女子EDM(自分で言っておきながら笑える)と形容したくなる“No Pressure”や、デビュー期を思わせるメロディーラインが印象的な“The Game”など粒ぞろいな新曲が加わり、バラエティ豊かなアルバムに仕上がっています。
かつて制服にフェティッシュ的要素を見出し、無機質でダークななエレクトロクラッシュとの耽美な融合を果たしたClientが思い出されますが、Little Bootsの場合は制服に限らずオフィスで使うアイテムや、仕事のあり方(働くことそのものに)対してのアプローチを以ってアルバムの世界観を構築しています。紆余曲折を経て仕事を楽しむ余裕が出てきた雰囲気が伝わる一方、ミュージシャンを生業とする者として、果ては独立した一人の女性としての意志表示のようにも聴こえ、少しヒリヒリした感覚さえ伝わります。そりゃあジャケ写みたいにシリアスな表情で肩肘張りたくもなるもんです。
デビュー作”Hands”で彼女が魅せた華々しいネオンの光は2作目“Nocturnes”で遠景へと消え、長い夜を抜けた先に出した答えが、本作のラストを飾る”Better In The Morning”なのだとしたら、かなりグッと来るな……。ちゃんと聴いてみるとどうやら『後ろ向きな気持ちに「いつだって朝には良くなってる(はず)」と言い聞かせながら、止まらないあくびもコートのボタンで留めて仕事へと向かう』(主観による要約)といったニュアンスのほろ苦ソングのようです。ピースフルなアレンジやスキャットで見事にオブラートに包まれている辺りがより一層切なさを助長させるし、この曲をアルバムの最後に置いた彼女の意図を考えると、本当にこれからも音楽業界で踏ん張ってほしい(小並感)…と切実に思ってしまいます。この際自分のことは棚に上げます。がんばれ!負けるな!





1. Tove Styrke - Kiddo


スウェーデンのエレポップ女子Tove Styrke(トーヴェ・スティルケ)嬢の世界デビュー作となった通算2作目のアルバム。去年のEPオブザイヤーでも取り上げました”Borderline”収録の5曲を含めた強力盤です。
EPの時点でも色々と書きましたが、サウンド面においてよりオルタナティヴな方向へ舵を切った気概にあっぱれと言わざるを得ない。ポップな芯は残しつつも若干ひねくれ気味なアレンジが良いクセとして効いてます。それもそのはず、本作のプロデュースにはFamiljenことJohan T Karlssonが携わっており、ソングライティングにおいてはLinnea Henrikssonが2曲ほど参加していたりと、そりゃあ好きだわ…と納得の布陣でした。
10代のデビュー時からすでに大人びたところがありましたが、本作で芯の強さも備わり、一皮剥けた印象です。映画Kill Billの主人公Beatrix Kiddoの名をタイトルに冠しただけあります。ここで勢いに乗るか、若くして孤高のオーラを放つ彼女の未来がより楽しみに思えた一作。こちらを今年の個人的年間ベストアルバムとさせていただきます!


ナンバーワンということで、お送りするのはやっぱりこの曲。





【REPOOOOORT BEST OF 2015】(※随時更新していきます)
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