ALBUM OF THE YEAR 2015 (10-1)




【REPOOOOORT BEST OF 2015】(※随時更新していきます)
1. ALBUM OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )
2. EP OF THE YEAR ( 5-1 )
3. TRACK OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )


10. Marina and the Diamonds - Froot


フォークロアな色合いのデビュー作”The Family Jewels” (万が一「無人島にアルバムを1枚持っていくなら?」と聞かれた時の答えはこれだと決めている)〜エレクトロ路線と華美なビジュアルで見事にオルター・イーゴを演じきった2作目”Electra Heart”と、どちらも異なるベクトルで濃い目のアルバムが続いたMarina嬢。初のセルフプロデュース作となった今作はそれらに比べると非常にあっさりしていて、いい意味で無駄がない。ただ彼女の「素」がそこにある、まっさらな境地がシンプルなバンドサウンドによって見事に提示されています。
タイトルの通り色とりどりのフルーツをモチーフに展開されたアートワークや、昨年から本作リリースまでに行われたキャンペーン活動“Froot of the Month”など、ファンをワクワクさせるようなビジュアルやプロモーションで彼女から多くの楽しみをもらった上半期でした。





9. 水曜日のカンパネラ - ジパング


ある日ラジオで耳にした“桃太郎”で胸を射抜かれ、とりあえずYouTubeで検索をかけてみるとこの曲以外にも沢山のMVを作っていることに気づき、それらを一通り見ていくうちにこりゃあキリがないぞと思い立ち、過去のリリースを遡るようにCDを買う……といったルートを辿った人はきっと自分だけではないはず。
トレンドの潮流を巧く汲んだサウンド、巧みな言葉遊びの応酬が耳に気持ち良いコンセプチュアルな歌詞世界、そしてユニットの顔であるコムアイ嬢の魅力(本当にすごいし、ずるい)。嗅覚の鋭さと程よいユルさのバランス感覚に長けた人々の集まったチームによるクリエイティビティがこのアルバムに集約されています。そりゃあもう、否応なしに楽しんじゃうしかない。難しいことは考えずに。





8. Kate Boy - One


2012年の暮れに“Northern Lights”で突如としてシーンに登場したスウェーデンのエレクトロポップバンドKate Boy待望のファースト作…ですが、ぶっちゃけ言うと、アルバム出すの1年遅くないか?と思ったほど勿体ぶられちゃった気がしてます。4人だったメンバーもいつの間にか2人になってるし。
しかし彼ら…というよりは、Kate嬢の持っているであろう確固たるビジョンはブレなかった。ビートの効いた力強い楽曲群、エネルギッシュなヴォーカル、モノクロを基調とした一貫性のあるビジュアルアプローチ…といった、Kate Boyというプロジェクトを構成するあらゆる要素がデビューから大きく破綻されることなく、3年がかりでようやくひとつの作品として結実されたことは祝福されるべきことです。そう考えると、“One”というタイトルはただ1枚目のアルバムだからと言って付けられたものではない、一見単純なようで、非常に大きな意味のあるものに思えてきました。





7. Disclosure - Caracal


前作と聴き比べてみるとプロダクションが格段にゴージャスでアトモスフェリックになってて耳が昇天しました。正直に言うと「金かかってんな〜」っていうのが第一印象ではあるんですが、それはもうリスナーにとっては非常にありがたいお金の使い方なのでいいんです。(実際の使途は分かりませんが。笑)
The WeekndやLorde、再タッグのSam Smithと豪華なメンツで固められてはいますが、売れたからといってセルアウトに走らず堅実に仕事をしている印象です。ミッドチューン多めでアルバム全体が落ち着いたトーンでまとまっている辺りもそう思わせる要因なのかも。
ネームバリュー云々を抜きにして楽曲とボーカルの組み合わせで好きだなと思ったのがGregory Porterの“Holding On”(歌い出しから最高!)、Lion Babeの“Hourglass”(本作で一番聴いてる曲!)、Naoの“Superego”(前作に無い曲調!)辺りでしょうか。特にLion BabeやNaoといった女性シンガーのチョイスに関しては今作かなりツボでした。





6. SOPHIE - Product


今やMadonna安室奈美恵Charli XCXなど引く手あまたの売れっ子プロデューサーとなったUKのぶっ飛び系バブルガムベースお兄さんことSOPHIEによるシングルコレクションです。(そういえば、きゃりーぱみゅぱみゅとのコラボの話はどうなったんだろうか……)
本作ではSilicon Productという新たなフォーマットも打ち出されており、最高にDOPEなアプローチをかましてくれています。また昨年シングルとしてリリースされた本作収録の“Lemonade”が今夏海外でマクドナルドのCMに起用されたわけですが、商業主義や消費主義に対する嘲笑やアンチテーゼ的姿勢を取っているPC Music一派に関わる楽曲なだけに、かなりの大事件であり、同時に自然な流れとも捉えられるセンセーショナルなニュースとなりました。
本作後半の新曲群は“MSMSMSM”や“L.O.V.E.”といった聴覚を蹂躙する系の楽曲が挟まれますが、お耳直しと言わんばかりにそれらを補って余りある“VYZEE”と“JUST LIKE WE NEVER SAID GOODBYE”によって救われます。毎年毎年彼の曲を聴き倒しながらこういった音に対して耳がどんどん慣れていく感じ、実にドラッギー。





5. Jain - Zanaka


今年の個人的ベストニューカマー賞は彼女にあげたい。1992年生まれの新進女性SSW・Jainのデビュー作。マダガスカルをルーツに持つ彼女はフランス・トゥールーズで生まれ、コンゴUAEでの居住経験も持っているユニークな遍歴の持ち主です。
Jainという名前はジャイナ教が由来では無いかと予測されますが、阿修羅像を彷彿とさせるジャケットのポーズは仏教かヒンドゥー教由来のもので、どうやらジャイナ教とは直接的な関係は無さそう。さらにマダガスカルには少数とはいえ数万人単位のインディアン・コミュニティがあるらしいということも分かり、彼女のルーツをさらに辿るとインド系移民とも繋がってくるのではないか…という仮説に辿りつきました。(ちょっと前に本作に端を発したこんな話題で知人のインド文化研究者と少し盛り上がったので、余談ではありますがメモとしてここに記しておきます。)
レゲエ〜アフロ・ビート〜ソウル〜ブルースといった多様なジャンルを見事に自分のもにしたハイブリッドな世界観に、有無を言わせず身体と心が弾みます。アルバムの幕開けを飾るリード曲“Come”で《My soul is in Africa》と歌っているように、自らのアイデンティティを音楽によって体現した、まさしく「名刺代わり」のデビュー作であると言えよう。
ちなみにアルバムタイトルはマダガスカル語で「子供」を意味し、収録曲の“Makeba”は、Mama Africaの愛称で知られ、反アパルトヘイト闘争のシンボルともなった南アフリカ共和国出身の歌手・Miriam Makebaがモチーフとなっています。
2013年にリリースされ欧州各国でメガヒットを記録したStromaeの2ndアルバム“Racine Carée”もそうでしたが、彼らのようなアーティストの活躍によって、ヨーロッパや周辺諸国を取り巻く実に様々な文化・社会・歴史的背景を学ばせてもらっている自分がいます。





4. Especia - Primera


祝・メジャーデビュー!と思いきや1曲目を飾る若旦那(湘南乃風)プロデュースの“We are Especia〜泣きながらダンシング〜”が界隈で物議を醸しまくっててリリース前から若干心配でしたが、2曲目で即座にインタールードが差し込まれ、以降はいつものEspeciaでひと安心。なんて大人の事情が垣間見えつつも、相変わらずクオリティの高いオケと、そこにん追いつかんとばかりに着実にヴォーカルスキルを上げにかかっているメンバーの努力の結晶が顕著に伝わる出来栄えで、来年リリースの新作にも期待がかかります。
そして本作で特筆すべきは初回盤のDisc2でしょう。もうね、最高としか言いようがありません……。インディーズ時代ほど自由に音源を配布できなくなった代わりなのか分かりませんが、とんでもない大盤振る舞いです。リミックスはもちろんだけどインストでもことごとく聴かせにかかるから本当に反則です。ヴァイナル盤としてリリースされ、期間限定でフリー配信もされていた“Primavera”と合わせて聴いた日にはもうフルコース。





3. Róisín Murphy - Hairless Toys


いやー、本当にこのおばさん、いい年の重ね方してるわ。音もビジュアルもポップで華やかだった前作“Overpowered”から8年も経てばそれはもう落ち着いた大人の様相に…いやでもやっぱりちょっと様子がおかしい。アルバム全体にうっすら漂う“静かなる狂気”のせいでしょう。全8曲ながらほとんどの曲が5〜6分台。じわじわと展開される楽曲を聴き進んでいくうちに、一人芝居が繰り広げられるスポットライトを遠くの客席で眺めているような感覚に陥ります。時におどけてみたり、かと思えば途端に空気が張り詰めたような表情へと変貌する。そんな彼女の表現の振れ幅を堪能するには、静かな環境が一番良さそう。深夜にヘッドホンをして耽りたくなるアルバム。
ちなみに現在公開されている4つのアルバム収録曲のMVは、いずれもRóisín姐さん本人によるディレクションによるもので、往々にしてイカてます。もうこのテンションが素なのではないかとさえ錯覚してしまいそう。






2. Little Boots - Working Girl


「働く女」とはこれまた、自身でレーベルを運営するフィメールボスとしての肩書を持つ今の彼女にとって実にドンピシャなコンセプトを持ってきたものです。
昨年リリースのEP“Business Pleasure”は今作の布石でした。フェミニンで洗練された大人女子EDM(自分で言っておきながら笑える)と形容したくなる“No Pressure”や、デビュー期を思わせるメロディーラインが印象的な“The Game”など粒ぞろいな新曲が加わり、バラエティ豊かなアルバムに仕上がっています。
かつて制服にフェティッシュ的要素を見出し、無機質でダークななエレクトロクラッシュとの耽美な融合を果たしたClientが思い出されますが、Little Bootsの場合は制服に限らずオフィスで使うアイテムや、仕事のあり方(働くことそのものに)対してのアプローチを以ってアルバムの世界観を構築しています。紆余曲折を経て仕事を楽しむ余裕が出てきた雰囲気が伝わる一方、ミュージシャンを生業とする者として、果ては独立した一人の女性としての意志表示のようにも聴こえ、少しヒリヒリした感覚さえ伝わります。そりゃあジャケ写みたいにシリアスな表情で肩肘張りたくもなるもんです。
デビュー作”Hands”で彼女が魅せた華々しいネオンの光は2作目“Nocturnes”で遠景へと消え、長い夜を抜けた先に出した答えが、本作のラストを飾る”Better In The Morning”なのだとしたら、かなりグッと来るな……。ちゃんと聴いてみるとどうやら『後ろ向きな気持ちに「いつだって朝には良くなってる(はず)」と言い聞かせながら、止まらないあくびもコートのボタンで留めて仕事へと向かう』(主観による要約)といったニュアンスのほろ苦ソングのようです。ピースフルなアレンジやスキャットで見事にオブラートに包まれている辺りがより一層切なさを助長させるし、この曲をアルバムの最後に置いた彼女の意図を考えると、本当にこれからも音楽業界で踏ん張ってほしい(小並感)…と切実に思ってしまいます。この際自分のことは棚に上げます。がんばれ!負けるな!





1. Tove Styrke - Kiddo


スウェーデンのエレポップ女子Tove Styrke(トーヴェ・スティルケ)嬢の世界デビュー作となった通算2作目のアルバム。去年のEPオブザイヤーでも取り上げました”Borderline”収録の5曲を含めた強力盤です。
EPの時点でも色々と書きましたが、サウンド面においてよりオルタナティヴな方向へ舵を切った気概にあっぱれと言わざるを得ない。ポップな芯は残しつつも若干ひねくれ気味なアレンジが良いクセとして効いてます。それもそのはず、本作のプロデュースにはFamiljenことJohan T Karlssonが携わっており、ソングライティングにおいてはLinnea Henrikssonが2曲ほど参加していたりと、そりゃあ好きだわ…と納得の布陣でした。
10代のデビュー時からすでに大人びたところがありましたが、本作で芯の強さも備わり、一皮剥けた印象です。映画Kill Billの主人公Beatrix Kiddoの名をタイトルに冠しただけあります。ここで勢いに乗るか、若くして孤高のオーラを放つ彼女の未来がより楽しみに思えた一作。こちらを今年の個人的年間ベストアルバムとさせていただきます!


ナンバーワンということで、お送りするのはやっぱりこの曲。





【REPOOOOORT BEST OF 2015】(※随時更新していきます)
1. ALBUM OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )
2. EP OF THE YEAR ( 5-1 )
3. TRACK OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )

ALBUM OF THE YEAR 2015 (20-11)




【REPOOOOORT BEST OF 2015】(※随時更新していきます)
1. ALBUM OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )
2. EP OF THE YEAR ( 5-1 )
3. TRACK OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )



20. Najwajean - Bonzo


Najwa NimriとCarlos Jeanのタッグによる実に約7年半ぶり(!!!)の新作。2008年リリースの前作“Till It Breaks”は荒涼としたインディーロックでしたが、一変してベースミュージックを取り入れた妖しくヘヴィーな作風に。この振れ幅、個々のソロ活動が良い塩梅で活かされてます。もっとこの2人の組み合わせで色々やって欲しいな…着実にキャリアを積んで申し分ない技術と幅広い音楽的雑食性を持ち合わせた40代同士だなんて、どこをどうしたって間違いないじゃないですか。
そして相変わらず美魔女っぷり炸裂のNajwa、昨年リリースされたソロ名義での新作“Rat Race”でもその魅力が遺憾なく発揮されていましたが、女優としては今年に入ってキャリア初の連ドラ出演を果たす(しかも女囚人役でこれまたハマり役!)など、順調にいい年の取り方をしてます。





19. TOWA TEI - CUTE


極私的な話で恐縮ですが、今年の夏に初めて愛媛を訪れる機会がありまして、その時に立ち寄った今治タオルのお店で買ったTOWA TEIコラボの手ぬぐいをここ最近愛用しているところです。手ぬぐい、ってのがまた(根拠はないけど)「らしいな」と思わせてくれます。で、その手ぬぐいを買ってしばらくした頃にリリースされたのが本作。何だかいいタイミングだったな。
本当にこの人の安定感は半端無いというか、俗物的なものを感じさせない余裕のある大人が作る音楽なんだな…と一聴しただけでそんなことを思ってしまった。身体に馴染んだソファに腰掛けて、再生ボタンを押すとたちまちリビングルームの広さが2〜3倍になったような気分になります。最初の3曲(“FLUKE”〜“TOP NOTE”〜“LUV PANDEMIC”)の流れが特にお気に入り。CDを取り込んだ時に客演で参加しているLEO今井の表記が「家入レオ」になってたのはご愛嬌かな。笑





18. Popstitute - Dangerous Convicted Soul


南アメリカ大陸の北西部に位置するコロンビアの男性シンセポップデュオPopstituteのデビュー作。セクシーなボーカルのニュアンスとダンサブルな楽曲との組み合わせは、どうしても2010年のアルバムオブザイヤーとして挙げたロシアのTesla Boyを引き合いに出さずにはいられない。ただPopstituteはもっとミニマルでハウシー。その分ボーカルの息遣いが際立ちます。この「濡れ感」の中毒性の高さたるや…ぜひご一聴を。特にアルバムのラストナンバーを飾る“Decadent”はイタロっぽさも相俟って、フロア向けに10分くらいの長尺でエディットして欲しいくらいに延々と漂っていられる。うっとり……





17. Lianne La Havas - Blood


ミーハーなので全英(および欧州各国の)チャートのチェックは毎週欠かせません。そんな中で夏にリリースされアルバムチャートで初登場2位をマークしたことで知ったのが、こちらのネオソウル系SSWの2作目。ジャケットを一目見て、ああこれ間違いなく絶対好きなやつだなと思って聴いたらドンピシャでした。芳醇かつ豊潤。ここ数年でJessie WareやLaura Mvulaといったフィメールシンガーの活躍もあり、積極的に耳にするようになったUKソウル/R&Bシーンに年々着実にハマりつつある昨今です。年齢を重ね自分自身の音楽の趣味嗜好が徐々に変化していることを改めて実感して、あ、ちょっと楽しくなってきたかも…というタイミングで良い作品に出会えました。
余談ですが彼女は同じく今年リリースされたRudimentalの新譜“We The Generation”に2曲(うち1曲はデラックスエディションのみ収録)客演として参加しています。“Needn’t Speak”は楽曲前半で「これむしろLianne嬢名義の曲でいいのでは…?」と思わせておいて、後半突如として挟まれるドラムンベースのパートで一気に落としにかかるという隠れキラーチューンとも呼ぶべき良曲なので、合わせて聴かれたし。





16. Jaloo - #1


何よりもまずジェンダーを超越した摩訶不思議なビジュアルに惹かれたブラジルのエレポップ男子Jaloo。彼の故郷であるブラジル北部Pará(パラ)州の州都Belém(べレン)は、80年代ポップスのリミックスを根底に持つ音楽ジャンル・Tecnobrega(テクノブレガ)発祥の地。彼が本作以前にリリースしている女性ボーカルネタ限定のカバーアルバムやリミックスアルバム(タイトルもそのまま“Female & Brega”)からも、テクノブレガ・カルチャーの一端を垣間見ることができます。ブートレグ感溢れる独特なアレンジは、インドネシアのファンキーコタ(ファンコット)にも通ずるものがあったり、バイレファンキともまた違った毛色をしていたりと、聴けば聴くほど興味は尽きず、ただでさえジャンルの細分化が著しい南米の音楽なだけに本当にキリがありません。
さて、オリジナルアルバムとしては1作目となる本作もテクノブレガが下敷きであることは一聴すれば明白ですが、(インターナショナルな)ポップミュージック的要素も取り込みながら、他のテクノブレガ系アーティストと異なるアプローチをもって既存の枠を飛び出し新たな局面へと押し上げた意欲作であると言えます。随所で使われる8bitサウンドも良いスパイスになっていて、チープでダサくなる一歩手前を攻めてるよう。ビジュアルも含め、もっと世界的に注目されるべき逸材ではなかろうか。





15. John Grant - Grey Tickles, Black Pressure


なんつージャケ写だ…そして同時に発表された血塗れ顔のアー写トレイラー映像(※ちょっと閲覧注意)にも魂消た。アルバムタイトルも含め、中年ゲイのリアリティにまさに直面している現在47歳の彼なりの皮肉とユーモアを伴ったアティチュードの表明なのでしょうか。おじさん急に一体どうしちゃったの…と心配になりましたが、蓋を開けてみると前作を踏襲した中身で安心。しかも全英アルバムチャートで初登場5位という快挙ですよ(同じ週で初登場組だったSelena GomezやHurtsの新譜よりも上でびっくりした)。
極め付けはアウトロ。小さい女の子と思しき声で話されるのは、新約聖書で「愛の章」と称される『コリントの信徒への手紙:第13章』の一節。《Love never fails.》(意訳:愛に失敗はない)と。紆余曲折あったけど結局は愛なんだ、と。アルバム本編を全て聴き終わった後にこれがくるので物凄い説得力。前作のジャケットで我々に冷たい視線を向けていた強面のおじさんと同一人物とは思えないほど、憑き物が取れたように解放されたんだな、きっと……しかしなんつージャケ写だこれ……(褒めてます)
そういえば前作はアイスランドでのレコーディングでしたが、よほど肌に合ったのか、今ではレイキャヴィクに居を移すまでに (ちなみに本作のレコーディングは米テキサスとのこと)。早速各方面で引っ張りだこのようで、元々2012年にアイスランド語でリリースされていたÁsgeirの1stアルバムの英語版“In The Silence”の歌詞を手がけています。“King And Cross”のMVにも登場してたりして。また、2014年のEurovision Song Contestでアイスランド代表を務めたバンドPollapönkの楽曲“No Prejudice”の英語バージョンの歌詞も彼によるものだそう。





14. Negicco - Rice & Snow


1曲目の“トリプル!WONDERLAND”のイントロで一瞬のうちに虜になってしまいました。MJでPerfumeと共演した回を観た時はうっかりもらい泣きしてしまったし、アルバムが出て聴き込んだタイミングでネギナンバ(南波志帆とのコラボイベント)も観れたし、何なら来年2月開催のNegipeciaのチケットも発券済みです。
普通の女の子感溢れるNegiccoの3人と、豪華な製作陣による純粋で真っ当にJ-POPしてる楽曲群。それ以上に何を求める必要のない、過不足でも飽和でもない丁度良さにホッとする。ちょっと冒険したような後半の“BLUE, GREEN, RED AND GONE”〜“Space Nekojaracy”〜“自由に”の流れは驚きの連続でしたが、この3曲がセットであることによってそれぞれの曲が浮くことなく、一枚のアルバムとしてきちんと集約されているように思えます。





13. Shamir - Ratchet


先に挙げたJalooも然りですが、ジェンダー超越系男子が確実にきている。(でもこんな風に何でもかんでもカテゴライズしちゃうと怒られそうだな…) 時代がようやく追いついたとも言うべきか。ポップでカラフルな味付けのアレンジにハイトーンなヴォーカル、MVで見せるキュートな仕草…何にも捉われない奔放な姿がとても印象的で、リスナーである我々をもあらゆる境界や括りから解放してくれるよう。

ふだん国内盤に封入されている歌詞の対訳をじっくり読むことはほぼ無いんですが、本作のそれはちょっと面白くて、つい聴きながら読み入ってしまいました。一人称が「あたし」なのがミソ。《そうそうあたしは止まらない/ガンガンこれがShamir的》(“On The Regular”より)なんか的を外さず尚且つパンチがあって、とても好きなフレーズです。訳文も韻を踏んでたりして思わず感心。これは今までに買った他の洋楽アルバムの対訳もちゃんと読むべきだな…と思った次第です。





12. Mariel Mariel - Foto Pa’ Ti


中南米インディ音楽に関してはエレポップ界隈ばかり聴いてましたが、彼女はまさしく現代の正統派ラテンミュージックの様相を呈しています。アルバム全体に色濃く反映された中米〜カリブ音楽のフィーリングが特徴的。本作以前に発表されているオーソドックスなラテンポップスの楽曲たちと聴き比べてみると、メキシコに移り住んで以降の今の音がより彼女にフィットしていることがよく分かります。ぜひMVと一緒に聴いていただきたい。

“Los Bajos Vibran En Mi Pecho”のMVにおけるレイドバックな楽曲とグリッチの手法を用いた映像表現の組み合わせなんてとても刺激的だし、アルバムタイトル曲“Foto Pa’ Ti”のVHS画質のカラオケ映像を彷彿とさせるリリックビデオの質感も非常にツボを心得ています。この曲に関してはDJ Casoによるリミックスも原曲と同じくらい好き。





11. Halleluwah - Halleluwah


プロデューサーSölvi Blöndal(ex.Quarashi)とシンガーのRaketaことRakel Mjöll(ex.Utidur, Sykur)から成るアイスランドの男女デュオによるデビュー作。2013年の夏にリリースされたシングル“Blue Velvet”の歌い出しで即KOでした。まさに《Kate Bush × ローファイ × 60年代フレンチポップス》な趣。元々はSölviのソロプロジェクトにRaketaがボーカルとして参加していたのがいつの間にかデュオとして定着したようで、2人の相性の高さやが窺い知れます。Raketaは最近Dream Wifeというガールバンドを始動させたようで、Halleluwahの音が今後聴けるかどうかは定かではありませんが、2人の引き合わせの妙にあっぱれ。クリスチャン・ディオールにインスパイアされた“Dior”なんてもう極上にキュートでメロウでシネマティック。魅惑の世界へようこそ。





【REPOOOOORT BEST OF 2015】(※随時更新していきます)
1. ALBUM OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )
2. EP OF THE YEAR ( 5-1 )
3. TRACK OF THE YEAR ( 20-11 | 10-1 )

Karin Park - Apocalypse Pop


スウェーデン出身で現在ノルウェーを主な拠点に活動中の女性シンガーKarin Park、通算5枚目となるアルバムです。
このタイトル、「ポップの黙示録」と訳すべきか。3rdアルバム"Ashes To Gold"辺りから徐々に深まりを見せた《electro-goth》あるいは《industrial-pop》とも称されるダークな世界観をより推し進めた作風に仕上がっています。ビジュアルに関しても前作"Highwire Poetry"の時期より前髪をオールバックにしてから印象が一気に変わりました。この風貌、最早イケメン。2003年のデビュー時とは見た目も音も完全に別物のよう。
ちなみに2ndアルバムは配信リリースすらされておらず、もはや黒歴史と化しているようです。(ここのインタビューでそれらしき旨の発言が)


余談ですが、実は日本との縁が深いKarin Park。ここ数年のいくつかのインタビューにおいて、日本で過ごした幼少期のエピソードを明かしています。なんでも彼女の父親が日本でミッションスクールの校長をしていたようで、7歳から3年間日本で生活していたそう。instagramにも以前に日本での幼少時代の写真を投稿していますが、「#Toyohashi」のハッシュタグが添えられてありました。元愛知県民?ちなみに本人曰く「まるでジャングルのよう」なド田舎だったとのこと。



(比較用に髪の毛を下ろしていた頃の写真も貼っておきます。時期不明)


外仕事では、2013年に作詞作曲(MachoPsychoとの共作)を手掛けたMargaret Bergerの"I Feed You My Love"がEurovision Song Contestにノルウェー代表として選出され、本戦ファイナルまで残り4位という大健闘の結果を残しています。またKarin Park自身も今年、ESCの本戦出場に向けて"Human Beings"を引っさげMelodifestivalenに参加しましたが、残念ながらファイナル進出を逃しています。


Margaret Berger & Karin Park (ノルウェーのTV番組での共演のようす)


リリース時の4月頃には地元のタワレコに置いてあって(しかも試聴コーナーに!)ひとり心の中で小躍りしておりましたが、実は店舗で予約しておきながら、こちらでリミックス4曲を収めたボーナスディスクが付いたサイン入り限定版が手に入る事を知り、注文をキャンセルしたおかげで在庫が回ってきてしまったのが原因なのではないかと少々根に持っています。店員さんごめんなさい。そしてありがとう……(勝手な思い込み)



Apocalypse Pop

Apocalypse Pop

Vanbot - Perfect Storm


スウェーデンのエレポップアクトVanbot、このほどリリースされた4年ぶりとなる待望の2ndアルバムです。
公式ウェブサイトのバイオグラフィによると、当初は2013年秋にリリースされる予定だったようですが、直前でプロジェクトを白紙に戻し、再び一から制作し直したのだそう。
思い返せば2012年から2013年の間に3曲のシングルがリリースされていますが、いずれも今回のアルバムには収録されておらず。良曲揃いなのにもったいない!と思いつつも、彼女の楽曲制作に対するストイックな姿勢にはただただ感心するばかりです。

♪ Vanbot - Got To Get Out (Soundcloud)
♪ Vanbot - Hold This Moment (YouTube)
♪ Vanbot - When My Heart Breaks (YouTube)



そんな紆余曲折を経て、満を持してのリリースと相成ったのがこの"Perfect Storm"(いいタイトルだなあ)。前作の正統派な北欧エレクトロサウンドを踏襲しつつも、EDM的な力強いリフを取り入れた先行シングル"The Way You Say It"を筆頭に、昨今のトレンドが巧いこと取り入れられています。同郷ストックホルムのバンド、Shout Out LoudsのボーカリストであるAdam Oleniusを客演に迎えた"Watching You Sleep"では、ペンタトニックスケールを用いた民族音楽調の音色がフィーチャーされており、こちらも非常に印象的。
デビュー時はしばしばRobynやThe Knifeなど同じくスウェーデン出身のアーティストを引き合いに出されることの多かった彼女ですが、もはや他の比較など必要のないまでにすっかり独自の音楽性に磨きがかかったように思えます。


♪ Vanbot - Trooper


♪ Vanbot - Perfect Storm


現時点で日本での配信リリースはまだのようですが、 オフィシャルよりCDが手に入りますので是非。
http://www.vanbotmusic.com/

Zun Zun Egui - Shackles Gift


Zun Zun Egui(ズンズンエグイ)というバンド名に妙に惹かれて聴いてみたら何とびっくり。UKブリストルのバンドなのですが、メンバー構成から音の感じまでそこはかとなく多国籍。そして看板に偽りなしと言わんばかりにズンズンと押し寄せるエグイ音。普段エレクトロポップばっかし聴いてるけど、実はこういう土臭い雑食系サウンドも非常〜〜〜〜〜に好みなんです(…ということをもう少しちゃんとアピールしておこうと思いました)。



でも何でこんなバンド名なんだろう?と思った時に、主にスペイン語圏において"Zunzunegui"(読み:スンスネギ)というファミリーネームが存在すること、そしてメンバーの中に日本人(女性のキーボードプレイヤー)がいること、この2つに気付いた瞬間に腑に落ちました。言葉遊びの妙。


(6/19追記) なんともいきなりな話ですが、解散がアナウンスされてしまいました。好きになったばかりのバンドの解散ほど悲しいものはない……音源を買う事がせめてもの餞になれば幸い。
http://zunzunegui.org/


シャックルズ・ギフト

シャックルズ・ギフト

Roisin Murphyのここ数年の活動変遷を振り返る


5月に約7年半ぶり(!!!)となる3rdアルバム"Hairless Toys"をリリースしたばかりのRóisín Murphy (ex. Moloko)。全英アルバムチャートで初登場19位を記録し、メジャー音楽シーンに久方ぶりの帰還を果たした彼女ですが、この8年近くの期間は決して何も音沙汰が無かったわけではなく、出産などのパーソナルなイベントを挟みつつも毎年ひっそり且つコンスタントに音楽活動を続けていました。



♪ Róisín Murphy - Hairless Toys (Amazon)


2ndアルバム"Overpowered"以降にリリースされた"Orally Fixated"や"Momma’s Place"といったシングル群もすでに懐かしい存在ですが、個人的に印象的だったのは、Viktor & Rolfの2010年S/Sコレクションでしょうか。楽曲はイタリア出身のエレクトロデュオCrookersのアルバム"Tons of Friends"に客演で参加した2曲を歌唱していましたが、"Overpowered"のアルバムにおけるビジュアルの世界観にも繋がる奇抜な衣裳が何よりもソークールでした。
2011年以降は客演ボーカルとして多くのアーティストの作品に参加していましたが、彼女自身の名義での楽曲は"Simulation"のみに留まります。いずれもフロア向けのリリースの模様。(英語版Wikipediaのディスコグラフィ参照)



また、昨年5月には全編イタリア語のカバー曲で構成されたEP"Mi Senti"をリリースしていますが、そのあまりにも唐突な謎の舵切りには困惑したものです。



…という具合で、今年に入っての"Hairless Toys"に至るわけですが、これに隠れて少し遡ること3月にはアルバム未収録の新曲"Jealousy"がリリースされています。そしてこの2バージョンあるタイトルトラックのうち、11分超という大作のDisco Mixがこれまたとんでもないキラーチューンでおったまげました。Moloko在籍時の1999年にリリースされ、世界中のフロアを沸かせた"Sing It Back"と肩を並べるほどに出色の出来だと言いきれます。40代に突入したRóisín Murphyのキャリア史上一番賑やかなディスコナンバーなのではなかろうか……。
しっとり落ち着いた大人の雰囲気を帯びた新作アルバムとは全く毛色が異なるのは言うまでもありませんが、ぜひ合わせて聴いていただきたい。



♪ Róisín Murphy - Jealousy (Amazon)



もちろん"Hairless Toys"が名盤であることも記しておきます。熟成された大人の女としての味わい深さのようなものがいい具合に滲み出たアルバムです。

Todd Terje - Alfonso Muskedunder


ノルウェーが生んだ北欧ニューディスコおじさんTodd Terje、昨年リリースの1stアルバム"It's Album Time"(昨年の私的アルバムオブザイヤー第7位)から最高にご機嫌なキラーチューン"Alfonso Muskedunder"がシングルカット。それに伴い同楽曲のMVが先日公開されましたが、これがもう最高に…かわいいです…(語彙の欠乏)



"Delorean Dynamite"のMVを監督したEspen Fribergと再びタッグを組み、一連のジャケットのアートワークを手がけるBendik Kaltenbornのイラストたちをアニメーションとしてフィーチャーした映像は、過去のシングル作に登場したキャラクター(?)たちも沢山出てきて楽曲同様に賑々しい仕上がりです。



♪ Todd Terje - Alfonso Muskedunder Remixed (Soundcloud)


12インチのリミックス盤としてリリースされるシングルには、スイスのテクノおじさんDeetron(この組み合わせが聴けるのは個人的にとても嬉しい)を筆頭に4曲のリミックスが収録されています。4曲目は3曲目のMungolianによるリミックスをTodd Terje自身がTangoterje名義のもとで再構築したエディットとなっており、日増しに夏が近づくこれからの季節にドンピシャなのではなかろうか。